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~事例2~中堅・中小企業のM&A戦略

事例2. 経営の自己改革を可能にする企業再編型M&A

従来のように漫然と様々な事業に手を出すのではなく、本業に関係ない事業や将 来性のない事業から撤退し、コアの事業や将来性の高い事業に経営資源を集中しようという考え方です。

大手電機メーカーの下請けであった北進電機製作所(仮称)の新井社長は、ある日、元請けの電機メーカーから衝撃的な通告を受けました。この大手電機メーカーが日本での生産を大幅に縮小し、主力生産拠点を中国に移転することになり、将来的には北進電機製作所に頼んでいる製品も全量中国に移転するだろうというのです。

創業者の新井社長に残された選択肢は2つです。一つは大手電機メーカーとともに中国に進出し、現地に工場を設立すること、もう一つは海外移転する現在の電気部品から業態を変更して、日本国内で製造できる分野に転換することでした。結局、新井社長が選んだのは後者でした。日頃「工場の生産管理だけには自信がある」と自負していた新井社長は、自信のある生産管理のノウハウを生かして、今後も日本で製造できる製品の製造に業態を転換しようと考えたのです。しかし、一概に日本で製造できるものといっても、新井社長に名案があるわけではありませんでした。そこで地元の税理士を通じて私どもに相談にこられたのです。新井社長の話を伺うと、電機部品以外にも製造の経験があり、長年の実務に裏打ちされたその生産管理のスキルは、電機部品以外の分野でも生かせそうなことが わかりました。こうしたやりとりの結果、最終的に日本M&Aセンターが紹介したのが関東カード(仮称)という磁気カードの製造・販売会社の案件です。

もともとコンピューター機器の販売からスタートした会社だけに非常に営業力が強い会社でしたが、その生産部門がいま一つだったのです。工場はありましたが、生産管理も行き届かず、生産した製品のうち不良によるロス率は実に3割近くにまでのぼるという状況だったのです。関東カードの真藤社長は、生産部門を売却して、強い営業力に経営資源を集中させるべきだと考えていました。

一見違う分野の会社のようですが、実は意外な接点がありました。調べてみると北進電機製作所の主力製品であるプリント基板に使う印刷技術が磁気カードの生産にも使えるなど共通点が多く、技術的にも全く問題なく対応できることがわかりました。また、磁気カードの生産はセキュリティの問題もあり、海外での生産は不可能なため、国内でメーカーとして事業を継続していきたいという真藤社長の考えにもぴったりでした。

こうして北進電機製作所は電機部品工場を売却し、関東カードの生産部門を営業譲渡の形で譲り受けることになりました。その後の北進電機製作所の業績は順調です。以前は3割近くあったロス率がなんと1~2%にまで下がりました。製品の磁気カードは関東カードが仕入れて販売するため、販売ルートの心配もありません。

先般、北進電機製作所は社名を関東カード製造に変更しました。新工場も落成し、さらなる売上増が期待されています。見事に業態転換に成功したのです。最近は中国の安価な部品の輸入が増え、かつての電機部品の同業者の廃業が続いているとのことです。将来を見据え、M&Aによって早めに自社の強みを生かした業態転換をはかった新井社長の決断が明暗をわけたといえるでしょう。

(日本M&AセンターのHPより転載・許諾済)