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~事例1~中堅・中小企業のM&A戦略

事例1. 後継者問題の解決と企業発展のためのM&A

現在、中小企業のおよそ50%は後継者がいない状態だといわれています。特に地方にあっては長引く不況とも重なり地場産業の後継者難が深刻です。後継者問題を解決し創業社長の長年の労苦が報われる一方、譲受企業のもと新たな発展への礎を築くことができるのが、このタイプのM&Aの特徴だといえます。

加藤建設(仮称)は愛知県で戸建て住宅の建設業を営んでいる年商15億円、経常利益7500万円、従業員約20名、創業者の加藤社長のもと地域に密着した一戸建て住宅で成長した優良企業でした。しかし、加藤社長には大きな悩みがありました。

一つは後継者の問題です。70歳を超えた加藤社長の一人息子は東京の大手企業に就職しており、後を継ぐ気が全くありません。そのため、一度は社員のなかから後継者を選び、後を託そうとしましたが、「個人資産が少ない上に、経営者としての能力も未知数」としてメーンバンクから大反対を受けました。

もう一つは相続の問題です。加藤建設が優良企業であるため、加藤社長が事実上100%保有している株式の評価額が非常に高くなります。顧問税理士の試算によると、今、万が一、加藤社長が亡くなった場合、遺族に約6億円の相続税がかかることがわかりました。上場会社なら相続した株式を市場で売却し、納税資金に当てることもできますが、非上場企業の加藤建設にとっては無理な話です。もちろん新たに経営者にした従業員が株式を買い取ることなど到底不可能な金額であることはいうまでもありません。

このように後継者問題は、相続の問題と表裏一体の関係にあることが多く、加藤建設のように優良な企業であっても後継者問題の深刻さは同じであり、逆に更に大きな問題となる傾向が強いのです。

結局この問題を最終的に解決したのがM&Aによる株式譲渡の方法でした。

加藤社長は自らの持ち株の3分の2を隣県の中堅ディベロッパーである佐藤工務店 (仮称)に譲渡することにしたのです。

佐藤工務店は年商約100億円、主力のマンションに加えて戸建て住宅への進出を考えていました。地元で高い知名度と実力をもつ加藤建設をグループに加えることで、一挙に戸建て建設部門を拡大することができます。又両社の営業エリアが 近く、佐藤工務店の主力であるマンションについても加藤建設が施工、販売するなど相互に相乗効果があり、大きく発展する要素を秘めた組み合わせです。

実際M&A後、実力のある従業員を役員に引き上げるなどオーナー企業から脱却した加藤建設は、佐藤工務店と相互の営業エリアでの住宅建設、マンション分譲を共同で進めています。従業員の間には加藤社長のワンマン経営の時代とも違った新たな活力がみなぎるようになってきたといいます。

一方後継者問題を解決し、自ら創業した企業を佐藤工務店に継承してもらうことで新たな会社発展のレールを引いた加藤社長は、株式譲渡代金として7億円余りを手にして無事ハッピーリタイアを迎えることができました。

しかしこれで終わりではありません。実は加藤社長のもう一つの悩みであった相続の問題もこのM&Aによって解決することができたのです。

M&Aによって自社の株式を譲渡し、納税資金を調達できるのは勿論ですが、株式譲渡によって新たに50%超の持ち株をもつ同族株主が誕生したことによって、実は加藤社長の保有する残りの3分の1の株式の相続税評価にあたっては配当還元法という評価方法を採用できるようになったのです。

配当還元法では通常の未公開株式の評価にあたって使用される時価純資産価額法などに比べて、株式の評価額は非常に安くなります。加藤社長のケースでは実に10分の1以下の評価額です。M&Aで株式を譲渡することによって、納税資金を調達するだけでなく、相続税そのものの額も大幅に安くすることが可能なのです。

(日本M&AセンターのHPより転載・許諾済)